消化管

胃潰瘍(消化性潰瘍)

 潰瘍とは,粘膜から粘膜下層,さらにそれよりも深部までの組織が障害されなくなった状態をいいます(図).胃にできると胃潰瘍,十二指腸にできると十二指 腸潰瘍といいます.成人に発生する潰瘍は,長く胃酸による障害と考えられていましたが,最近ではピロリ菌(Helicobacter pylori)の 感染によって正常の胃あるいは十二指腸の粘膜が障害を受けると考えられています.しかし,小児では年齢によって原因が異なり,新生児は生まれるときのスト レスや低酸素など種々の障害が原因になるとされ,乳幼児では,ステロイドなどの薬剤や種々の原因によるストレスにより発生し,学童期は心因性のストレスで 十二指腸潰瘍の発生が多いとされています.
 症状としては,新生児,乳児期から幼児期では,下血や吐血が多く,幼児期では繰り返す嘔吐や腹痛が主な症状となります.学童期以降になりますと,上腹部の限局した部分に痛みを訴えるようになります.

ulcer.jpg 診断はまず,バリウムを飲んでX線撮影を行う,上部消化管造影検査を行い,胃および十二指腸の粘膜に異常がないかをチェックします.最近,大人ではこの検 査を行わずに胃カメラで粘膜の状態を直接観察することが増えていますが,小児では全身麻酔が必要なこともありますので,まず最初に造影検査を行い,それで も潰瘍が見つからず,症状が続く場合に胃カメラをするといった手順がより好ましいでしょう.

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 治療は,胃酸の酸度を抑える薬剤による治療が主であり,胃や十二指腸の粘膜が再生してくるのを待ちます.また,血液検査や内視鏡検査でピロリ菌の感染が証明された場合には抗生物質を同時に投与して,いわゆる除菌治療を平行して行います. 重度の場合には潰瘍部位からの大量出血や胃穿孔,十二指腸穿孔をきたし,緊急内視鏡や緊急開腹術が必要になることもあります.


肥厚性幽門狭窄症

hps schema 生後2-3週から3ヶ月位までの赤ちゃんがミルクを吐く病気です.筋肥厚性幽門狭窄症とも呼ばれています.

 胃の出口 にある幽門筋が肥厚するために胃の出口が狭くなり,飲んだミルクが十二指腸に運ばれず胃内に停滞します.ミルクで胃が一杯になると飲んだミルクを噴水状に 大量に吐きますが,吐いた後でも赤ちゃんは空腹感のためにさらにミルクを欲しがります.幽門筋がなぜ肥厚するのかは正確にはわかっておりません.この病気 は初めてのお子さんで,しかも男の子に多くみられますが,女の子や第2子以降のお子さんにも無いわけではありません.これまで親子にみられたケースや双胎 (双子ちゃん)の双方にみられたケースも報告されています.

 治療開始が遅れますと体液がアルカリ性に傾き,体重増加が得られずやがては出生時体重をも下廻ってくることもあります.診断は比較的容易ですが,最近では 超音波検査 で幽門筋の肥厚の程度まで測定することができます.治療方法はまず体液がアルカリ性に傾いているのを点滴で補正する必要があります.現在では手術によって 幽門筋を切開し拡げる方法(ラムステット手術という)が世界中で行われており,手術後早い時期にミルクが飲めるようになります.この数年,内視鏡を使って 幽門筋を拡げたり( 鏡視下手術 ),また,硫酸アトロピンという製剤を静脈内に注射することにより幽門筋を弛緩させて治療する方法などの有効性について小児外科学会で議論されております.治療方法の選択は小児外科主治医とご相談ください.


胃軸捻転

 胃がねじれることによって,嘔吐,腹痛,腹部膨満などの症状を呈する病気です.
 胃を周囲から固定する組織(図1)が弱いことが最も大きな原因ですが、胃の位置が変わりやすい先天的な遊走脾や横隔膜の病気でなることもあります.
 胃軸捻転の形から,長軸捻転と短軸捻転に分類されます(図2).また症状の出方から,急性,慢性,間欠性(反復性)に分類されます.
 急性胃軸捻転は,突然胃拡張がおこり腹痛,吐き気,上腹部が張るという症状を起こします.捻転の形によっては,吐き気が強いにもかかわらず嘔吐できず,鼻 から胃に管を挿入して胃の内容を吸引しようとしても挿入が困難なことがあります.捻転が高度になると、胃に血液が流れなくなって胃が腐ったり(壊死),胃に穴が開いたり(穿孔),ショックになることもあります.診断や手術が遅れた場合の死亡率は高いという報告もありますので,このような場合は時期を逸さず外科治療を行う必要があります.
 慢性ないし間欠性の胃軸捻転では,腹痛,吐き気,嘔吐を繰り返します.症状の経過と捻転時のおなかのレントゲン写真などから診断されますが,症状が出た時の上部消化管造影によって診断がより正確にできます(図3).
 新生児や乳児にみられる慢性胃軸捻転は,胃前庭部が発育し,こどもが立って歩くようになる1歳を過ぎると自然によくなるのが一般的です.長軸型が多く,嘔吐を繰り返しますが,体位療法などの保存的治療が勧められています.
 幼児期になっても症状がよくならない慢性ないし間欠性胃軸捻転は,手術が必要になることがあります.手術は胃の軸捻転を解除し,胃を前方の腹壁に固定する 方法がよく行われますが,最近は腹腔鏡手術も行われます.遊走脾や横隔膜疾患にともなう胃軸捻転ではそれらに対する処置も必要になります.

図1:周囲からの胃の固定
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図2:胃軸捻転の形
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長軸捻転 短軸捻転
図3:反復性胃短軸捻転症

消化管穿孔

 食べたものが消化吸収されながら運ばれてゆく経路,即ち食道・胃・十二指腸・小腸(空腸・回腸とに区別),大腸(結 腸・直腸)の全てをまとめて消化管という表現を使います.消化管穿孔とは,これら消化管のどこかで,腸管の壁に穴が開いて(破れたり,裂けたりする場合も あります),消化液や食物・便などが消化管の外へ漏れ出している状態を指しています.
 小児外科の病気は,年齢層ごとに罹りやすい病気が異なっていて,消化管穿孔は生後1ヶ月以内の赤ちゃん(新生児)によく発生します.以前は胃に発生するこ とが多かったのですが,最近は小腸に発生する場合が増えています.低出生体重児では,重篤な腸炎(壊死性腸炎)に伴って発生する場合と,生後数日目に突然 発生する二種類の場合があります.新生児は,いわゆる“抵抗力”が弱いために一旦消化管穿孔が起きると,救命のためには早期の外科治療が必要です.
 症状は,まず赤ちゃんの元気がなくなって,ミルクを飲めなくなったり吐くようになったりします.徐々にお腹が膨れ,硬くなってきます.腹壁を通して黒っぽ い色(漏れ出した便の色)が透けて見えたり,男児では陰嚢が大きく赤黒く腫れてくることもあります(図).レントゲンでは,本来ガスがないはずの部分(胃 や腸の外)にガスがたまっている所見がみられます.
 消化管穿孔と診断がついたら,なんらかの手術が必要になります.赤ちゃんの状態によって直ちに開腹手術を行うか,一旦お腹に小さな切開を開け,管を入れて 漏れたガスや腸液などを外に出して,お腹の張りをとる処置を優先するかを判断します.手術は,消化管穿孔の部位によって方法が異なります.腸に病変がある ときには,破れた腸の部分を持ち上げて一時的に人工肛門にした上で,ドレナージといってお腹の中に漏れ出たものを導き出すように,複数の管を入れる術式が とられることが多いのです.近年の小児外科医療の進歩によって救命率は改善してきていましたが,最近は低出生体重児の増加が原因で,むしろ死亡率が増加し ている疾患です.

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先天性腸閉鎖症・腸狭窄症

 うまれつきに腸(十二指腸,空腸,回腸)の一部が途切れている腸閉鎖と,狭くなっている腸 狭窄 があり,あわせて腸閉鎖症・狭窄症といいます.新生児で手術が必要な病気のうちでは直腸肛門奇形についで多く見られます.閉鎖症は,十二指腸,回腸,空腸 の順に多く見られ,狭窄症は十二指腸に多く見られます.閉鎖のタイプは膜様型,索状型,離断型,多発型に区別され,膜様型の膜様隔壁に小さな穴があいてい るときに狭窄症となります.低出生体重児(未熟児)に多く見られます.十二指腸閉鎖・狭窄症では, ダウン症 や他の消化管奇形,心大血管奇形などを合併することがあります.

 

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Distabd.jpg 飲み込んだものや腸液が、狭窄部または閉鎖部の手前にたまり嘔吐をきたします.そのままでは脱水がひどくなり血液循環が悪くなったり,腸穿孔が発生するため,放置しておくことはできません.生まれて24時間以内に 胎便 が排泄されるのが普通ですが,これが遅れたために発見されたり,嘔吐や徐々にお腹がはってくることで気付かれたりします.黄疸もよく合併します.現在では,出生前診断で見つかることが多くなっています.

 腸閉鎖症の治療は緊急性を要するため,急いで鼻から胃まで管を通してたまった腸内容を吸引し,さらに点滴で 脱水 電解質 異常の補正を行って,状態が良くなったところで手術を行います.十二指腸閉鎖は胃に入れた管から持続的に吸引しておけば胃・十二指腸が破れることがないた め,手術をのばすことが可能ですが,小腸の場合は吸引していても腸の動きで胃から先に空気や液体が入ってゆくため,早晩腸の一部が裂ける 穿孔 が発生します.このときは,緊急手術が必要ですが,穿孔する前に手術するのが原則です.手術は,膜様部か閉鎖部を切除して,腸を縫い合わせて繋ぎます. 短小腸 を伴う場合や多発型では,使える腸が極端に短くなることがあり,術後長期間にわたって高カロリー輸液治療が必要となることがあります.


腸回転異常症

 小腸の長さは新生児で1.5~2m,成人で4~6mあります.この長い腸管がお腹の中にうまく納まるために,腸管の発 生過程で回転と固定という現象が起こります.胎生8週頃に小腸と大腸の一部は一度臍帯内に脱出し,臍帯内で成長し胎生12週までにお腹の中に戻ってきま す.この戻る過程で,十二指腸はいちばん背中側(深いところ)を体の右から左に走るようになり,逆に大腸はむしろお腹の浅いところで左から右に大きな円を 描くように回ります.そして,その間の小腸は左上から右下(斜め方向)に走る形におさまり,長い小腸があたかもカーテンレイルに固定されたような安定した 形をとります(図).一方,腸管の回転と固定が障害されると,いろんないびつな形で腸管が固定されますが,扇を広げたように小腸と大腸の一部が根元で収束 する形が最も多いタイプです(図).このタイプでは,突然扇の要の部分で腸が捻転して,腸管の血行が悪くなる病気(中腸軸捻転)が発生します.放置する と,小腸と大腸の一部が壊死(死んでしまう)をおこし,手術をしても残った腸が短くなり,消化吸収に障害がでる短小腸という重篤な状態になります. 腸回転異常症では,生後1か月以内に約80%の患者さんで中腸軸捻転による症状がでます.急にミルクが飲めなくなったり,激しく吐いたりする症状で始ま り,さらに進むとお腹が張ってきたり,腸管の血行が悪くなって血便が出ることもあります.症状が急激で,赤ちゃんがぐったりするような場合は,緊急手術が 必要なことがあります.緊急でない場合は,消化管透視(造影検査)などをして診断を確実にしたうえで開腹手術を行います. 一方,赤ちゃんの間はなんともなく,年長児になって腹痛や間欠的な嘔吐の症状ではじめて診断されることも,時にみられます.この場合にも,消化管透視や腹 部超音波検査,腹部CTなどを行って確定診断されれば,開腹手術が行われます.

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腸重積症

 生後6ヶ月前後の離乳期の元気な赤ちゃんが急にぐったりし,やがては顔色が蒼白(血の気が引く状態)になり,便に粘液の混じった血液を認めるようになる病気です. この病気は大急ぎで診断し,治療を始めなければなりません.

intussusception schema 典型的な腸重積症は小腸の終りの腸である回腸が大腸に入り込むために生じます.回腸が大腸に入る(これを腸重積といいます)原因としては腸に分布しているリンパ組織が腫れて大きくなり,この部分から大腸に入っていくと考えられておりますが,時には小腸に ポリープ があったり 膵臓組織が小腸に迷い込んでいたり メッケル憩室 といって生まれつき腸管の一部が袋状に残った場合にはこれらの部分から腸重積がおきます.リンパ組織が大きくなる原因としては風邪などのウイルス感染が指摘されております.そのために約1/4の腸重積症の赤ちゃんに感冒症状を認めます.
この病気は離乳期前後に多いと最初に記載しましたが,多くは1歳くらいまでのあかちゃんがかかる病気ですが、まれにはそれ以上の幼児や生まれて間もないあ かちゃんにも見られることがあります.お母さんの胎内で胎児がこの病気になりますと,この赤ちゃんは小腸の一部がつまった病気―先天性腸閉鎖症―を持って 生まれてきます.
男の子の方が女の子より2倍くらい多く発生するといわれております.

 腸重積がおきますと,腸管から返る血液の流れが障害され腸管にある細い血管が破れて血液が腸の中に出ますので便に血液が混じるのです.腸重積がおき時間が 経過しますと,腸内容の移動が障害され,吐くなどの腸の閉塞症状が現れますし,また腸重積を起こした腸は次第に血液が流れなくなるために組織が死んでいき ます( 壊死 ).このような腸の状態になる前に病気を診断し,治療を急がなければならないわけです.

 診断は外からお腹の中にソーセージのようなかたまりを触ることや, 超音波検査 で腸重積を起こした部分を映し出したりまたレントゲン検査で診断出来ますので,異常が疑われた場合には一刻も早く受診されることをお勧めします.

 この病気にかかったと思われる時間から24時間以内に来院された赤ちゃんの8割は造影剤(レントゲンに写る物質)を肛門から注入し,圧を加えることにより 腸重積を元の状態(これを整復といいます)にすることが出来ます.また造影剤を用いる代わりに空気を肛門から注入し整復を試みている施設もあります.しか し,2割前後の赤ちゃんは整復ができないため手術により腸重積を整復することになりますが,腸の組織に血液が流れない状態が長く続いた時には腸を切り取ら なければなりません.ご両親はお子さんが手術を受けるために早い決断が必要になります.

 腸重積の整復後にも絶食と入院を勧められますが,これは腸重積を起こした腸管の病気の回復と再発の予防のためです.再発は約10%位に見られますので,病気が起きた時の赤ちゃんの症状を覚えておきましょう.


メッケル憩室

Meckel_01.jpg 憩室とは,管状の臓器(腸,血管,尿管)または袋状の臓器(膀胱,胆嚢など)の壁の一部が,焼もちが膨れるように外へとび出た袋状の突起物を指します.
 メッケル憩室は,小腸の中間部分にみられる袋状の突起物を指します.19世紀ドイツの解剖学者Meckelが,はじめて正確な記録を残したのでその名を とって名づけられました.ヒトの胎児のごく初期に卵黄管という管が臍帯(へその緒)と小腸との間に一時的に発生しますが,この卵黄管はまもなく消えてしま います.ところが,卵黄管が消えずに残ったときにメッケル憩室になります.

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 全人口のなかでも2%くらいの人にみられるとされ,そのうち約20%が、炎症、腸閉塞、下血などの症状を発生します。メッケル憩室は腸粘膜で被われている ことが多いのですが,一部に胃粘膜が存在することがあり,胃粘膜から分泌された胃酸によって小腸に潰瘍ができ,そこから出血することがあります。この出血 は,一度に大量に出ることが多く,痛みなどの前触れなく突然に殆ど血液そのままの状態で排泄されるような出方です.胃酸を分泌する細胞が存在する場合は、 アイソトープを用いた検査で診断が可能な場合もあります.しかし,一方で炎症や腸閉塞を起こす場合は,虫垂炎や他の原因による腸閉塞などとの区別はかなり 難しいので,手術をして初めてメッケル憩室の診断が確定する場合も多くあります.

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 手術では,憩室と周囲の腸の一部を含めて切除します.最近では大きく開腹せず,腹腔鏡という内視鏡を用いて小さな傷から切除する方法も,行われています.


腸管重複症(ちょうかんちょうふくしょう)

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 正常な本来の腸以外に異常な腸(重複腸管)が余分に存在する生まれつきの病気です.同じような異常は腸だけでなく口から肛門までのすべての食べ物が通る道 (消化管)にみられ,これらをまとめて消化管重複症といいます.消化管重複症は,食道や肛門など腸以外の場所にみられるものは少なく,腸に最も多くみられ ます.
 どうしてこの病気ができるのかまだ完全にわかっていませんが,お母さんのおなかの中で赤ちゃんの体ができるかなり早い時期に,神経管と呼ばれる後に脊髄 (せきずい)になる管と消化管が分かれる時に障害がおこるためと考えられています.そのため腸管重複症では時にせきつい(背骨)に異常が見られることがあ ります.
 余分な腸(重複腸管)は,正常な本来の腸にくっついてあることが多いのですが,時には全く離れた場所にあることもあります.重複腸管の形は,丸いふくろ状 (球状)のものと長いくだ状(管状)のものがあります.球状のものは,正常な腸と交通がないことが多いのですが,管状のものの多くは正常な腸と一部で交通 をもっています.重複腸管は,余分な腸管であってもその構造は本来の腸と同じようなものですから,その腸の壁には正常の腸と同じように粘膜(ねんまく)が あり,この粘膜には消化液を出す腺(せん)と呼ばれるものがあります.球状の腸管重複症では正常な腸と交通がないため腺から出される消化液がすこしずつ重 複腸管の中にたまってきて重複腸管がふうせんのように大きくなっていきます.その結果,そばにある正常な腸を圧迫して腸の通りが悪くなり,いわゆる腸閉塞 (ちょうへいそく)をおこしてきます.また球状の重複腸管そのものが腸重積症(ちょうじゅうせきしょう)の原因になることもあります.管状の重複症では, 腸閉塞の症状が出てくることは少なく,くだ状になった腸の中で炎症がおこったり潰瘍(かいよう)ができたりするため下血(便に血液がまじったり,肛門から 出血すること)や腹痛の症状がみられます.重複腸管の中には,ふつうの腸の粘膜以外に胃の粘膜がまぎれこんでいることがあり,この場合は重複腸管の中の胃 の粘膜から胃酸が出るため潰瘍ができやすくなります.
 腸閉塞や下血,腹痛などの症状は,他のいろいろな病気でもみられますので,手術前に腸管重複症を確実に診断することは難しいとされ,手術の時に初めて診断されることもまれではありません.しかし最近では,消化管の造影検査,超音波検査CTMRI検査などにより手術前に診断されることも多くなってきています.重複腸管の中に胃の粘膜がまぎれこんでいるときは,シンチグラムという検査が有効です.
 治療は原則として手術が必要です.ふつう重複腸管だけを取り除くことは不可能ですから,球状の腸管重複症では,重複腸管がくっついている正常の腸も含めて 切り取り腸をつなぐ手術が行われます.管状の場合は,重複腸管をすべて取り除こうとする正常の腸もかなりたくさん一緒に切り取らなければならなくなります ので,重複腸管の中の粘膜だけを取り除いたり,重複腸管と正常な腸の中が十分につながって交通ができるようにする手術を行います.通常の腸管重複症では手 術が適切に行われれば,後遺症や障害を残すことなく治ることが可能です.

腸閉塞


ヒルシュスプルング病

 ヒルシュスプルング病は,消化管の動きを制御する力を持っている腸の神経節細胞が,生まれつき無いために重い便秘症や腸閉塞を おこす病気です.この病気では腸の神経節細胞が肛門から口側に様々なところまで連続してみられないことが特徴です.消化管の神経節細胞は胎齢5週から12 週頃にかけて,食道の口側の端に発生し肛門に向かって順々に分布してゆきますが,この過程に何らかの異常がおこり途中で分布が止まったために起こります. この病気の約80%は,神経節細胞のない腸(無神経節腸管)の長さが肛門からS状結腸くらいまでなのですが,なかには大腸の全部,あるいは大腸だけでなくさらに小腸までおよぶ長い例もあります.

 症状は新生児や乳児の時期にみられることが多いです.生まれつき便が出にくい「便秘気味」のお子さまは大変多いのですが,この病気ではおなかの張りが非常に強く嘔吐を伴うことや,重い腸炎や,腸に壊死穿孔が起こって危険な状態になることもあります.

 診断は小児の一般的な診察や検査のほかに専門的な検査を行います.それには,(1)おしりから大腸を造影して細くて動きの悪い腸とその範囲を 調べる注腸造影検査,(2)おしりの締め具合をはかって,正常であれば肛門の括約筋にみられる弛緩反射がないことをみる直腸肛門内圧測定検査,(3)直腸 の粘膜を少し切り取って神経の異常を顕微鏡でみる直腸生検検査,などがあります.

 治療は手術が必要です.神経節細胞のない腸を切り取り,神経節細胞のある口側の正常の腸を引き降ろして肛門とつなげることが基本です.おなかを開ける手 術のほか,最近では傷痕を小さくするために腹腔鏡を使って行う方法や,すべての手術を肛門から行う経肛門手術などがよく行われています.手術後に少し便秘 や腸炎が残ることもありますので,手術後に排便を行うための訓練をしたり,おしりの機能を調べたりすることもあります.またお子さんの成長と発育が順調に 進むよう,長期にわたって外来での経過観察が必要です.


鎖肛(直腸肛門奇形)

 肛門は食べた物が消化管を通って体の外に出る最後の部分で,便を外に出すという大切なはたらきをもっています.鎖肛(直腸肛門奇形)とは,この肛門が生まれつきうまく作られなかった病気で,おしりに肛門が開いていないものから,小さな穴(瘻孔)がみられるものや,肛門の位置がずれているものまでさまざまです.出生した赤ちゃんの数千人に1人くらいの割合で発生し,消化管の先天的異常の中で最も多い病気です.生後約1か月までの新生児期に緊急手術も必要になる病気です.
 直腸・肛門は,胎児の初期には膀胱などの泌尿器系とつながってひとつの腔になっていますが,妊娠の2か月半頃までにそれぞれは分離して発育します.さらに 女児では分離した直腸と尿路の間に膣や子宮が下りてきます.この発生の途中で異常が起きると,男児では直腸と膀胱や尿道との間(図1),女児では直腸と子 宮や膣との間につながり(瘻孔)が生じることがあります.

症状
 おしりを診ただけでわかることもあり,多くは生まれたときに診断されます.出まれてすぐに体温を計るとき直腸に体温計が入らないことで診断されることがあります.お乳を与えていておなかが張ってきたり吐いたりすることから発見されることもあります.瘻孔のあるときは,男児では尿に胎便やガスが混じることがあります.女児では膣から胎便が出たり,子宮や膣に尿が貯まっておなかが腫れることがあります.幼児または学童になって,便秘や便が細いことから肛門の位置の異常に気づかれることもあります.まれに腸の穿孔を起こして腹膜炎になることがあります.

病型
 病型によって治療方針が大きく異なりますので,速やかに病型診断をします.直腸末端の位置による分類で,低位型,中間位型,高位型の3グループに分けるこ とが一般的です(図2).骨盤部の側面のレントゲン写真で,図のような3本の基準線をもうけて診断します.直腸末端が肛門部皮膚のごく近くまで届いている ものを低位型といい,皮膚より遠く離れているものはその程度の差によって,中間位型と高位型に分けられます.また,瘻孔の有無とその部位による分類もあります.

治療
 低位型では,多くの場合新生児期に根治手術を行います.女児の肛門膣前庭瘻で,膣に接して瘻孔が開口しているときは瘻孔を拡張して成長を待ち,乳児期以降に根治手術を行います.
 中間位型と高位型では,新生児期に人工肛門造設術を行います.この手術は,一時的におなかの皮膚に腸の一部を出す手術で,肛門の代わりをする目的で行いま す.人工肛門から便が出るようになり,母乳やミルクも飲めるようになります.そして赤ちゃんがある程度成長して,直腸や肛門の機能を担う筋肉が発達してか ら,おしりに肛門を作る根治手術をします.根治手術の内容や時期は,病型によってそれぞれ適切な手術術式や時期が選ばれます.根治手術を行った後人工肛門 を閉鎖し,肛門から便が出るようになります.

予後
 排便機能の長期遠隔成績では,低位型ではほぼ全例良好ですが,中間位型や高位型では高度の便秘や便失禁などの排便障害がみられるという報告があります.
 小児外科では,ただ単に救命することだけが目標ではなく,患児が成長とともに快適な学校生活や社会生活を送れるようになることが重要であると考えて診療し ています.おしりに肛門を作る根治手術が治療の終着点ではなく,おしりからきっちりと排便ができるようになることが目標です.そのために排便訓練が必要で すが,日常生活に支障がない程度の排便機能を確立するには何年もかかることもあります.この排便機能の確立のためには医療者とご家族との緊密な連携が必要 です.主治医の先生から十分に説明を受けて,よい協力体制を作るようにしたいものです.

図1 男児直腸尿道瘻
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図2 男児の直腸の高さのちがい
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肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻

 肛門のまわりが赤く腫れて膿をもつようになる病気を肛門周囲膿瘍といいます.生後1ヶ月前後から1歳位の乳児期の赤 ちゃんに比較的良く見られる病気で決して珍しいものではありません.この病気には二つの原因が考えられています.一つはオムツカブレによる皮膚からの感染 を原因とするものと,他の一つは肛門の奥の腸からの炎症が皮膚におよぶもの(乳児痔瘻と呼びます)の二つです.
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 乳児痔瘻は男の子に多く,女の子には比較的できにくいといわれています.肛門周囲膿瘍はしばしば乳児期の赤ちゃんが,下痢や軟便が続いた後に肛門のまわり が赤く腫れて膿をもつようになって起こります.赤ちゃんは痛みのために機嫌が悪くなり泣くようになります.膿瘍は良くなったり悪くなったりを繰り返すこと が多く,また肛門周囲の他の部位にも広がることがあります.肛門周囲膿瘍はひどく膿をもつようになると,皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出して あげなければ治りません.オムツカブレを原因とするものは,膿を出してあげた後に,下痢を止めて便性を整え,肛門の回りの皮膚を清潔にしてあげるだけでわ りと早く治ります.乳児痔瘻による膿瘍は再発を繰り返すことが多いので,場合によっては成人の痔瘻と同じような手術をしなければいけないときもあります.

 肛門のまわりが赤く腫れているのを見つけたときは,小児外科医に診てもらってください.この病気は赤ちゃんが1-2歳になりますと自然に治ることが多いようですが,まれに2歳以上になっても残ることがありますので,この時にも診察を受けてるようにしてください.


裂肛

 太くかたい便が肛門を通るときに,肛門の粘膜や皮膚が切れてできる肛門の裂け目(裂傷)のことを裂肛といい,赤ちゃんやこどもの血便の原因としてもっとも多いものです.
 肛門の粘膜にできた傷はふさがるのが早く,外から見てもわかりにくいことが多いのですが,排便のたびに繰り返して裂けると,次第に裂け目が深くなり炎症を 起こします(図1).痛みのために排便を嫌って便が出ないと,さらに便がかたくなり排便のたびに出血したり,おしりの痛みが強くなるという悪循環に陥ります.
 慢性的な裂傷と炎症を繰り返すと,裂け目のまわりの皮膚が「いぼ」のように盛り上がってきます.これは「見張りいぼ」と呼ばれる肛門のひだが腫れあがった状態で,ほかに尖兵ポリープ,皮膚垂とも呼ばれます(図2).
 炎症の強い場合は局所に軟膏などを使用することもありますが,便秘や かたい便が原因であることが多いため,排便のコントロールを行い肛門部の清潔を保つことがもっとも大切です.排便が順調になれば,裂傷の繰り返しがなくな り,「見張りいぼ」も小さくなってきます.治ったあとに肛門のひだのふくらみが残ることもありますが,手術の必要はほとんどありません.
 こどもさんの血便や排便時の痛み,肛門周囲の「いぼ」,などの症状が気になったときは,かかりつけの小児科の先生や小児外科医にご相談ください.

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図1 裂肛
前方、後方の矢印の部分に裂け目がみられる

図2 裂肛でみられる「見張りいぼ」
前方、後方の矢印の部分に皮膚の腫れとしてみられる

便秘

 便秘とは,排便の回数または排便量の少ない状態をいいます.
 小児の便秘には,少ないながら何らかの原因があっておきることがあります.その原因になる病気には,体のつくりの異常(鎖肛(直腸肛門奇形)など),ホルモンの異常(甲状腺機能低下症など),脊髄神経の異常(二分脊椎,髄膜瘤など),腸の神経の異常(ヒルシュスプルング病など),おなかの筋肉(腹筋)の異常(腹壁破裂ダウン症候群など)のほか,常用の薬(抗痙攣剤,麻薬など),精神発達の遅延,精神的なもの,毒物によるものなどがあります.
 これらの診断のためには,まず詳しい病歴の聴取を行います.そして肛門の周囲をみたり,おなかを触ったり肛門から指を入れて直腸を触れて便のかたまりがあるかなどを調べます.おなかのレントゲン検査で大腸の構造,大腸のガスや便の貯まっている状態,仙骨の形などをみます.さらに必要であれば,腸の造影検査や,直腸肛門内圧検査などを行うこともあります.
 これらの検査によって,ヒルシュスプルング病,鎖肛(直腸肛門奇形),二分脊椎など,手術が有効であると診断された場合には,その病気や状態に応じた適切な手術を行う必要があります.
 しかし,便秘の大部分は,結腸が長い,腸の動きが悪い,腸の水分の吸収が少ないなど,原因としてあげることはできても特定はできない,いわゆる特発性のものが多いです.
 小児では2~3日以上排便がなければ治療を受けたほうがよいでしょう.治療の目標は,腸に貯まった便をなくして,1~2日に1度の排便が続くようにするこ とです.便のかたまりが貯まっているときは,まず直腸に貯まっている便を出します.そのためにまず浣腸や洗腸を行い,さらに薬を服用して毎日排便できるよ うにします.排便の習慣ができるまで時間がかかることも多いので,副作用の少ない薬が必要です.緩下剤が有効で薬を中止できるのは約70%で,残りの 30%は長期にわたっていろいろな薬による治療が必要です.最近は漢方薬も有効とされています.原因のない便秘でも,長い間にわたって便秘がよくならない ときには,内肛門括約筋切除術などの手術を行うこともあります.
 これら便秘の治療には,高度な知識と診断と治療ができる小児外科医の診察をお受けになることをお勧めします.


急性虫垂炎

大腸の一番口側にある盲腸の先についている 虫垂突起 に化膿(かのう)が起こった状態で,いわゆる「盲腸」としてよく知られている病気です.2,3歳ごろから見られるようになり,小・中学生に多い病気です. この病気は右下腹の痛みが起きることでよく知られていますが,初めからそうなる訳ではありません.最初は虫垂突起の根元に便の塊などが詰まって虫垂の中の 圧が上がります.この時期には,おへそやみぞおちのあたりが痛みます.小さなこどもでは機嫌が悪くなる,食欲が落ちるといった症状になります.食べたもの や胃液を吐く(嘔吐,おうと)こともあります.

虫垂に化膿が始まると痛みは右下腹に移ってきます.この時期には発熱もあり,高学年のこどもなら右下腹の痛みを訴えます.小さなこどもは,元気がない,機 嫌が悪い,ぐずつくなど,はっきりした症状にならないことが多いようです.この時期に手術をすれば一週間程度の入院ですみます.最近行われはじめた内視鏡 を使った手術(腹腔鏡下手術)なら入院期間はさらに短くなります.

さらに化膿が進むと虫垂の周りに膿(うみ)の塊ができたり,お腹の中に膿が広がったりします( 汎発性腹膜炎 ).こうなると高熱が出,お腹が張ってきたり,お腹を軽く触るだけでひどく痛がったりします.足を縮め,背中を丸めて横向きに寝ることが多く,歩くときも 背中を丸め前かがみの姿勢になります.ここまで病気が進行すれば,膿をお腹の外に出すために数日間管を入れておかなければなりません.大量の 生理食塩水 でお腹の中を洗って,膿を出すための管を入れない方法をとる施設もありますが,いずれにしても手術創が化膿することもあり,入院は長くなります.

小さいこどもでは正確に病状を言うことができないために発見と診断が難しく腹膜炎を起こしてから手術になることが大人より多くなります.また,よく肥って 皮下脂肪の多いこどもでは傷やお腹の中の化膿が起こりやすくなります.このようなときはどうしても入院期間は長くなり,手術後何ヵ月もたってから再び傷が 化膿してなかなか治らないということになることもあります.

小さいこどもがお腹を痛がるのはよくあることですが,お腹をなでてやって気持ちが良ければ虫垂炎ではないか,虫垂炎でもかなり初期の段階です.進行した虫垂炎ではお腹を触ることをいやがります.


腸炎

 腸の中には,食べ物(人にとっては異物)や細菌などが存在し,それに対して人の体はいろいろな細胞(リンパ球や白血球など)や抗体をつくり,異物や細菌か ら体を守ろうとする働きを持っています.このような働きのバランスがくずれて,腸の一部または全体に炎症,出血,壊死(細胞が部分的に死ぬこと)などがお こることを腸炎といいます.

 腸炎の病因には下記に示すように多くのものが知られています.小児では,細菌やウイルスなどの感染症による腸炎が最も多く見られますが,感染以外では抗生 剤によるもの,ミルクなどのアレルギーによるものなどが比較的多く見られます.また小児外科に関係した病気では,ヒルシュスプルング病で腸炎がおこりやす いことが知られています.

1.感染症
(1)細菌(2)ウイルス(3)原虫・寄生虫(4)真菌
2.食品,毒物,薬物など
(1)過食,アルコール(2)食中毒(有毒魚介類,未熟な果物,毒キノコなど)(3)化学薬品(アスピリン,抗ガン剤,下剤,重金属など)
3.抗生物質
(1)抗生物質の直接作用,過敏反応(2)腸内の細菌の変化
4.物理的要因
(1)エックス線などの放射線(2)紫外線(3)寒冷
5.血液の流れの障害
ショック,虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん),心不全など
6.アレルギー
ミルクや食餌など
7.非特異性炎症性腸炎(ひとくいせいえんしょうせいちょうえん)
潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん),クローン病など
8.その他
腹膜炎(ふくまくえん)など

 

 腸炎の症状は,原因および原因疾患による炎症の種類,強さ,広がり,場所によってかなり重症度が違ってきます.急性腸炎の症状としては,下痢(げり),血 便,腹痛,吐き気,おう吐が見られます.キャンピロバクターといわれる細菌による腸炎では,少量の血便がしばしば見られますが,なかにはO-157のよう な病原性大腸菌感染によることもありますので,下痢に伴う血便が長く続いたり,血便の量が多い時は注意が必要です.また感染症の場合には発熱が見られるこ とが多いようです.

 治療は,まず下痢やおう吐などの症状を軽くするための治療(対症療法)として,吐き気止めや整腸剤,下痢止めの薬が用いられます.しかし,おう吐がある場 合には,薬の服用が困難なことも多く,下痢やおう吐によって脱水症状がある場合には,点滴による水分やミネラルの補給が必要になります.特に小さな赤ちゃ んでは,下痢やおう吐によって容易に脱水になりやすいので,注意が必要です.また,感染性の腸炎では,下痢止めによって無理に下痢を止めないほうがよい場 合がありますので,自己判断で下痢止めの薬を服用することはさけるべきです.症状が長く続く場合には,対症療法と平行して,腸炎の原因を調べることが必要 になります.疑わしい原因(抗生剤やミルクなど)がある場合には,その原因を取り除く(抗生剤やミルクの種類を変えてみる)こともひとつの方法です.感染 症による腸炎の診断には,便の中の細菌などを調べる検査や血液検査を行って原因を見つけることが重要になってきます.

 急性腸炎では,内科的な治療によって比較的短期間に症状がなくなる場合が多いのですが,長期にわたって慢性的に腸炎の症状が続く場合には非特異性炎症性腸炎などを疑う必要がありますので,小児の専門医にご相談されることをお勧めします.


壊死性腸炎

 壊死性腸炎とは,腸への血液の流れが障害され,それに細菌などの感染が加わることにより腸が 壊死 になる病気です.

 ほとんどは生まれてから30日未満(特に1週間以内)の赤ちゃんにみられますが,時に生後30日目以降にみられることもあります.妊娠週数が32週以下の 早産児や生まれた時の体重が1,500g未満の赤ちゃん,なかでも1,000g未満の赤ちゃんにおこる危険性が高く,全体の80%は体重が1,500g未 満の赤ちゃんにみられます.最近の新生児医療の進歩により体重の小さな赤ちゃんの命が助かるようになってきたため,壊死性腸炎の発生が増加しているといわ れています.

 その原因は,まだ完全にはわかっていませんが,小さな赤ちゃんの腸の未熟性,血液の流れの障害,細菌感染がその要因となります.腸の免疫(めんえき)や運 動が未熟なために腸の中で細菌が異常に増えます.これに加えて,血液の流れが障害されて腸の壁に傷ができると,その細菌が腸の壁のなかに入り込みやすくな り壊死をおこすと考えられます.お母さんのお腹の中にいる時や出産の時に,赤ちゃんの体の血液の流れが一時的に悪くなり酸素が少なくなる状態(仮死,呼吸 の異常,循環の異常,先天性の心臓病など)や子宮内や出産時の感染が加わると発症する危険性が高くなることがわかっています.また人工栄養(人工ミルク) も壊死性腸炎を引き起こしやすいと考えられていますので,できるだけ母乳をあたえることが,その予防につながるといわれています.

NECpg.jpg 症状と診断は,病気の進行状況によって三つの時期に分けて考えられます.
 I 期(疑いの時期):お腹が張る,ミルクの飲みが悪くなる,胃の中にミルクが残る,ミルクを吐く,元気がないなどの症状があります.体温の変動,脈が遅くな る,呼吸数が少なくなるなどの症状もあり,便潜血(検査で便の中に少量の血液が混じる)もみられます.X線写真では,ほとんど正常か腸の中に少しガスがた まってみえます.この状態では,まだ壊死性腸炎が疑わしいというだけで断定はできません.
 II 期(確実な時期):I 期の症状に加え,肉眼的に明らかな血便がみられ,お腹の張りが強くなってきます.X線写真では,腸の中のガスの量が著しく増え,注意してみると腸の壁の中 に入り込んだ小さなガスが見られたり,門脈(腸と肝臓をつなぐ血管)の中にもガスが見られるようになります.この状態になると,壊死性腸炎の診断が,ほぼ 間違いないものとなります.
 III 期(重症になった時期):II 期よりもさらに症状が進行し,血圧が下がるなどのショック状態となり,血便や胃管(治療のために胃の中に入れた管)からの出血もみられます.腸の壊死が進 行すると穿孔(穴があく)した状態になり腹膜炎となります.穿孔がおこると,X線写真では,腸からお腹の中にもれたガス(腹腔内遊離ガス)が見られます.

NECabd.jpg 治療は,前に述べた三つの時期によって異ります.I 期とII 期では,内科的な治療が中心になります.I 期では,ミルクを与えることをやめて腸の安静をはかり,点滴を行い抗生物質をあたえます.II 期になれば,胃管を入れて胃の中のものを外に吸出し,赤ちゃんの呼吸や血液の循環を積極的に手助けするようにします.もしIII 期へ進行し,広い範囲の腸が壊死になったり腸に穿孔がおこると外科的な手術が必要になります.手術の方法は,それぞれの赤ちゃんの腸の状態によって異りま すが,一般的には壊死になった腸を切り取り,元気な部分の腸同士をつなぐか,あるいは腸をつながないでいったんお腹の外に腸を出しておく手術(腸ろう手 術)が行われます.腸ろう手術の場合は,赤ちゃんが元気になった時点で腸をつないでお腹の中にもどす手術が行われます.

 新生児に対する医療が進歩したことで,壊死性腸炎になっても赤ちゃんが生存できる可能性は高くなってきました.しかし,この病気は,非常に小さな赤ちゃん がかかることが多いため,進行した場合には未だ赤ちゃんの命を救うことは困難です.また生存できた場合でも,壊死になり切り取る腸が多くなると残った腸が 短くなり長い期間,点滴や特殊な栄養剤による栄養補助が必要になったり,後々腸が狭くなるなどの後遺症がでることもありますので注意が必要です.


胎便性腹膜炎

 “ 腹膜炎 ”という言葉は,‘盲腸(虫垂炎)がひどくなって腹膜炎を起こしたなどというようなときに耳にすると思います.腹膜(腹壁や腸管などの臓器を包む薄い膜) に細菌などが感染し炎症を起こした状態を言い,主に腸管が破れて便が腹腔内に漏れたりしたために起こります.しかし,この“胎便性腹膜炎”というのは,胎 児期(生まれる前)に消化管が何らかの原因により 穿孔 胎便 がお腹の中に漏れて起こる腹膜炎で,細菌は関与せず胎便に含まれる消化液などによる化学的な炎症反応によるものです.消化管穿孔を起こす原因は,“消化管閉鎖あるいは狭窄”,“腸重積”,“腸捻転”などいろいろな病気があります.

mecper.jpg 胎便が腹腔内に漏出し炎症を起こすため,腸管同士さらには腸管と腹壁などが強い癒着(お互いにひっつきあうこと)を起こし一塊となったり(線維性癒着 型),漏れた胎便や消化液が腸管や他の臓器で袋状に覆われたり(嚢胞型)します.また,腸管の穿孔が出生直前に起こると癒着や袋状に覆われることなく腹水 が多く溜まった状態(汎発型)で出生します.

 生まれたときの赤ちゃんは,お腹が膨満しそのため息が苦しそうだったり,嘔吐や胎便がなかなかでない等の症状を呈します.最近では,生まれる前に 超音波 でわかることもあります.お腹のX線写真では,骨のような白い塊(石灰化)やすりガラス様の影が見られたり(漏れた胎便が化学反応のため石灰化します),嚢胞型では大きな袋が見られることがあります.

 治療は手術が原則で,開腹してお腹の中の胎便を洗い出して癒着を剥がし,腸管の穿孔部分を切除してつなぎます.また,穿孔の原因となった病気に応じた操作 も加えなければなりません.赤ちゃんの状態があまりよくないときは,お腹の中の洗浄のみを行い穿孔部付近の腸管を一時的に 腸瘻 (ちょうろう)とし,全身状態が良くなってから腸管をつなぐ手術を後で行うこともあります.


クローン病

 クローン病は,大腸や小腸などの消化管の粘膜に免疫の異常があるため,長期にわたって慢性的な炎症を繰り返す大変治りにくい病気です.潰瘍性大腸炎とともに消化管の炎症性疾患の代表的なものとして知られています.この病気は,今までは欧米諸国の青年期以降に多い病気とされてきましたが,最近は日本でも急激に増加しつつあり,また15歳以下の年少例も増加しています.

 これらの病気の原因は不明ですが,遺伝性な素因に,食べ物や腸の細菌などに対する消化管の免疫異常が加わって発病してくるものと考えられてい ます.このうち,潰瘍性大腸炎では大腸の粘膜病変が直腸から口側に続いているのに対して,クローン病では口から肛門に至るいずれの消化管の部位にも連続し ない病変として発生し,病変の範囲により小腸型,小腸大腸型,大腸型の三つの型に分類されています.また,潰瘍性大腸炎では粘膜のみが侵されるのに対し, クローン病では粘膜の下の粘膜下層,筋層にも病変が及びます.

 症状としては,腹痛や下痢,肛門部周囲の出血や瘻孔形成などの消化器症状のほか,貧血,関節炎,肝機能障害など全身性の異常も多くみられます.診断は,消化管造影や内視鏡検査で特徴的な所見が見られますが,おなかの中に複雑な瘻孔や膿のかたまりをつくっているときには超音波検査CT検査も必要になります.

 治療方針としては,腸管の安静や,食物に含まれるアレルギーの原因物質を避けるために 成分栄養療法(ED)などの内科的治療が必要となりますが,消化管の穿孔狭窄による腸閉塞症状,難治性瘻孔形成,コントロール不良の多量の出血などがあれば積極的に手術を行います.


潰瘍性大腸炎

UCbe.jpg 潰瘍性大腸炎とは大腸に無数の潰瘍ができ,良くなったり悪くなったりを繰り返し,何年にもわたって続くやっかいな病気です.大腸が全てこの病気におかされ 10年以上すると大腸のあちこちに癌が発生することもあります.10万人に2~5人がこの病気にかかるといわれます.

 直腸の炎症(むくみ,ただれ)から始まり潰瘍(粘膜の掘れ込み)をつくるようになり,次第に広がって時には大腸全部に潰瘍ができることもあります.潰瘍は 隣同士が繋がったり,独立したりしており,自然に治る方向の潰瘍と病気の勢いのある潰瘍とが混ぜこぜになるなど,さまざまな形を示します.潰瘍の間に健康 な大腸粘膜が島状に残り,茸のようなポリープ様に見えることもあります.潰瘍による炎症のため腸の壁は硬くなり,狭くなる(狭窄)こともあります.また, 重症になると腸が巨大に膨らんだり,穴があいたり,大量の出血を認めるようになります.

 潰瘍からの出血や蛋白質の漏れ出しがおこり,便に粘液と血液が混じりあったような粘血便や下痢,腹痛,食欲不振,体重減少などがみられます.また腸管の他 にも口の中にアフタ(潰瘍)ができたり,皮膚が硬く赤くなったり,眼に炎症を起こしたり,全身の関節炎になったりします.

 大腸内視鏡検査と注腸検査(お尻から造影剤を注入する検査)で診断します.内視鏡検査では大腸粘膜がざらざら状だったり,血が出やすかったりして血膿み状 の分泌物や,上に書いたようにたくさんのいろいろな程度の潰瘍やポリープがみられます.注腸検査では粘膜の皺が見えなかったり,腸の壁が硬くなった像,腸 が狭くなった像などがみられます.

 治療は腸の炎症を押えるステロイド剤やサラゾピリンなどの薬を口からのんだり,お尻から注入したりする,内科的治療が基本です.薬を続けてもなかなか治り にくいもの,病気の勢いが抑えきれないもの,あるいは大量の薬でないと抑えきれなくて成長障害が心配されるとき,病気が長期にわたり癌の発生が心配される ときなどは手術が必要になります.病気におかされた腸をすべて取り去ることが手術の基本です.

 一般に内科的治療では良くなったり悪くなったりを繰り返し,結局は長期化することが多くなりますので,前述のような問題点が少しでも認められたら手術が勧められます.


腸管ポリープ

 ポリープとは消化管粘膜表面に発生した限局性隆起性病変の意味で,茎のあるもの(有茎性)と茎の無いもの(無茎性),良性または悪性を問わずそのような形態を呈するもの全体の総称です.小児に発生する代表的なポリープは次の3種類です.

若年性ポリープ
 直径が1cm程度の表面が平滑な球形のポリープで,茎を有しています.腸管内に孤立性にできることが多く,悪性化はしません.よくできる場所は肛門に近い 直腸やS状結腸で,6割はこどもに発生するため,若年性ポリープと呼ばれています.糞便の粘膜に対する刺激が原因で発生すると考えられ,便の表面についた 赤いきれいな血液で見つかる場合が多いようです.肛門鏡,大腸内視鏡により観察することもできますが,肛門から指を入れてさわれる範囲にできる場合も少な くありません.治療は内視鏡を用いてポリープを切り取るのが一般的ですが,自然脱落もあります.再発は少なく,切除すれば特に問題となることもありません.

Peutz-Jeghers(ポイツーイエガー)症候群
 小腸を中心に胃や大腸にポリープが多発する疾患で,口唇や手足の指先にメラニン色素沈着が見られます.悪性化はまれながら報告があります.30?50%が 家族性発生です.代表的な症状は,腹痛や下血,貧血で,ポリープによる腸重積で発見される場合もあります.治療は内視鏡が届く範囲では内視鏡を使ったポ リープの切除(切り取り)が行われ,内視鏡の届かない小腸の病変に対しては,おなかを開けて小腸壁に穴を開けて内視鏡を挿入しポリープを切り取ることもあ ります.切り取った後も数年ごとに内視鏡で観察する必要があります.

家族性大腸ポリポーシス(家族性大腸腺腫症)
 大腸に100個以上のポリープができるもので,40歳をこえると約半数に大腸癌が発生します.APC遺伝子と呼ばれる原因遺伝子が同定され,この部位の遺 伝子変異で発生すると考えられています.治療は,大腸を切除する必要があります.本症に良性の骨腫およびデスモイド,皮様嚢胞や脂肪腫などを伴う場合を Gardner症候群と呼び,中枢神経悪性腫瘍を伴う場合をTurcot症候群と呼んでいます.

 

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異物の誤嚥・誤飲

 はいはいを始めたばかりの赤ちゃんから,2~3歳までの幼児は目にするものすべてが珍しく,口に入れてその性質を知ろうとします.このため,とんでもない 物を飲み込んだり,吸い込んだりしてしまいます.硬貨,マチ針,プラスチックの小物,ピンなどがよく誤飲されます.硬貨など鋭い縁がないものは待っていれ ば数日のうちに便と一緒に排出されます.しかし、食道の途中に引っかかっているときは,食道の壁に孔が開く( 穿孔 )ことがあるので,早めに取り出さなけれぱなりません.針やくぎなどのとがった物は,胃や腸の壁を傷つけることがあるので,すぐに医師に相談してください.胃の中にあれば,取り出す手段はいろいろあります.

 新しいアルカリ電池は胃の中にあると放電がおこり,胃液に含まれている塩酸の作用で包んでいる金属が破れて強アルカリの中身が出てきて胃の粘膜を損傷し, ひどい場合は孔をあけることがあり大変危険です.しかし,使い古して放電してしまっている電池はこのような危険はありません.胃の中にあれば強力な磁石で 取り出せることもあります. リチウム電池 は放電によってアルカリ性の液ができるため,短時間のうちに消化管の粘膜を傷つけます.アルカリ電池よりも危険なため,急いでとり出す必要があります.

 ピーナツや豆類を気管の中に吸い込んだときも危険です.豆類は気管支の中で水分を吸収して大きくなり,気管支をふさいでしまいます.そのうえ,ピーナツに 含まれている油成分が肺を刺激して肺炎を起こすといわれており,早急に取り出す必要があります.このときは麻酔をかけながら気管の中で操作ができる特殊な 気管支鏡が必要です.豆類を食べている時に転んだりしてびっくりした時に吸い込むことが多いようです.食べながら遊ぶ習慣をつけないよう注意して下さい.

 たばこは食べにくく,たばこそのものを大量に飲み込むことはほとんどありません.危険なのは,吸いがらを浸した水を飲むことで,ニコチンが溶け込んでいる ので,このときは緊急に胃洗浄などの処置が必要になります.一番いいのはこどもの周囲にたばこを置かないことで,お母さんは妊娠がわかったら禁煙しましょ う.お父さんも妊娠がわかったら禁煙を考えてください.少なくともこどもが産まれたらこどもと同じ部屋ではたばこはやめましょう.たばこの害は誤飲だけで はありません.

 こどもがはいはいを始めたら,こどもの口に入りそうなもの,こどもが興味を示しそうなものは手の届かないところに片づける手間を惜しまないようにしてください.